メンテナンス項目

サイレントメカのリフレッシュ

兎にも角にも、基本となるメカが正しく動作していないと、幾ら電気的に正常であっても、トータルとしての動作が成立しませんので、最初にメンテナンス作業を行うのはサイレントメカからとなります。メカを全て分解して、古くなったグリス(オイル)を脱脂し、破損が無いか確認しつつ、その場所に最適な油脂を注油します。

フライホイールのクリーニング

 フライホイールにはゴムベルトが常に接触しています。また稼働時には駆動トルクによる摩擦、静電気、埃などで汚れが付着します。適切なクリーナーにて初期に近い状態になるまでクリーニングします。メカを全て分解して、古くなったグリス(オイル)を脱脂し、破損が無いか確認しつつ、その場所に最適な油脂を注油します。

キャプスタン用ベルトの点検

 現在のキャプスタンベルトが当初のナカミチ純正のオリジナルベルトあるか、否かをまず確認します。ナカミチ純正のオリジナルベルトは最適な製造工程で作られ、一つ一つ測定治具に取付、左右裏表の4種類でワウフラッターを測定し、一番良い状態となる向きにマーキングされて組み込まれてます。したがって、劣化状態をみて使用に問題がなければそのまま使用します。互換ベルトに交換済みである場合は、無条件で新品に交換します。

メカコントロール用ベルトの交換

 稼働していない状態が長く続くと、一定のベルト位置(STOP時)でテンションが掛かった状態になります。それにより、ゴムベルトが変形した状態で硬化し伸縮性が損なわれ、動作時にテンション抜けが起こります。動態保存のために、定期的に動作させることが重要なのは、これが理由の一つです。

劣化し変形したベルト(左側) 新品のベルト(右側)

アイドラホイールゴムの交換

 メカコントロールベルトの劣化と同様にアイドラホイールのゴムも同じことが起こります。リールモーターのアイドラプーリー(金属)にアイドラホイールがテンションが掛かった状態にあります。動かさずにその状態が続くとアイドラホイール側のゴムに凹みが付いたままで戻らなくなります。この凹みにより、再生、特に早送り/巻き戻し時にカタカタと不快な音が断続的に発生します。さらに劣化が進むとゴムが完全に硬化し、駆動トルクが伝わらず空転し、再生不可、早送り/巻き戻しが出来なくなります。
未使用の状態が長く続くと(1か月以上が目安)容易に、同状態になってしまうので、定期的に動作させてあげることが肝要です。

アイドラホイール(上段) 
新品アイドラゴム(下段左側) 劣化したアイドラゴム(下段右側)

アジマス調整ベルトの交換

 キャプスタンベルト、アイドラゴムに対して、見落としがちなのがアジマス調整ベルトです。このベルトが劣化するとABLE動作時、(録音ヘッド)アジマス調整に時間が掛かったり、タイムアウトでABLEがエラー終了してしまうことになりますので、メンテナンスは必要です。メカコントロール用ベルトと同じ経過で劣化します。

アジマス調整ユニット

外部リモコン

 サイレントメカのメンテナンス後の動作確認では、フロントパネルを脱着した状態で行うことになります。したがってフロントパネルからの操作が出来ません。そのため、リアパネルのリモート端子にリモコンユニット(ワイヤード)を接続して動作チェックを行います。

外部リモコン

信号切替用リレー交換(密閉型リレーに換装)

1000ZXLではマザーボード基板に2個、録音NR基板に1個が信号切替用リレーとして使用されています。このリレーは既に製造終了となっており、またピン配置が特殊であるために現時点で入手出来るピンコンパチブルな代替えリレーが存在しません。以前に流通在庫品を入手し、試したのですが構造的に接点が暴露しているタイプであるために、新品未使用品にも関わらず経年変化による接触抵抗が大きく使用することが出来ませんでした。そのため、現在入手できる密閉型リレーを使用、ピン配列を適合させるための変換基板を新規設計し、ピン・コンパチブル且つ高信頼性の密閉型リレーで長期安定性が期待できる互換リレーを作成しました。リフレッシュ作業では、こちらの互換リレーに全て交換します。ピンコンパチブルではないリレーの交換という手法では、本体側のマザーボード基板にパターンカット及びジャンパ配線が必要となりますが、当方では極力オリジナルを大切にし、不可逆的な手法は取らないというポリシーです。

オリジナルのリレーとピンコンパチブルだけでなく、サイズ的にも同寸法内に収まる必要があります。                          

信号切替互換リレーユニット用変換基板
オリジナルリレー(左側)と信号切替互換リレーユニット(中央、右側)

マザーボード基板に使用されているリレーは上部に配置するディテクタ基板のコネクタの間にあり、ディテクタ基板の切れ込みに干渉しないよう高さ方向でもオリジナルリレーより低くする必要があります。

マザーボード基板(リレー交換前)
マザーボード基板(リレー交換後)

再生アンプ初段FET交換

再生アンプ回路は再生ヘッドからの微細な出力を低ノイズのデュアルJ-FETで受けてます。そのFETは経年劣化により、プチプチ、ブツブツといった可聴帯域で耳障りなノイズが発生します。この状態になると真面な再生が出来なくなります。このFETは設計年数が古く、生産終了品であり、流通在庫も枯渇していて、運よくあったとしても劣化している可能性が高いのです。実際に新品未使用品を以前入手したのですが、ペア品として使用できる状態ではありませんでした。その理由から、信頼のおけるパーツ商社にて特性の揃った単体品のFETを入手、さらに測定治具にて全数特性を測定し、特性の揃ったものをペアリング、熱結合させてパッケージしたものをメンテナンス用として作成しております。また併せて、J-FETのDCオフセット調整用半固定抵抗は信頼性高い多回転ポテンショメーターに交換し、調整性向上並びに長期の動作安定性を留意しております。

ペアリングしたFET
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FETを交換したPB-NR基板

オレンジキャップ(フィルムコン)全交換

ナカミチの回路に多く使われている部品に通称オレンジキャップと呼ばれているPPコンデンサがあります。これが経年劣化により、オープンモードまたはショートモードで故障することが高い頻度でおきます。現時点では大丈夫でも、何時故障するかはわかりませんので、予防策として全数交換いたします。

メンテナンス前
メンテナンス後

タンタル・コンデンサ交換(セラミック・コンデンサに交換)

 少数ですが、一部にタンタルコンデンサが使用されています。このコンデンサは故障時に多くがショートモードで故障します。一部は電源ラインに入っており、故障すると電源部も損傷する可能性もありますので、予防処置として交換したします。電気的特性上、セラミックコンデンサは音質面で不利なのですが、音声信号ラインには使用されていませんので、信頼性の高いセラミックコンデンサに交換いたします。

基板のリフレッシュ

基板の全点再ハンダ

 製造からかなりの年月も経過していますし、使用による熱ストレスも掛かっていますので、ワイヤーポストピン部など機械的ストレスがかかる部分は特に半田割れが起きやすい状況になっています。今後の予防処置を含めて、点数もかなり多いのですが、全点の再ハンダを行います。

脱フラックス

 再ハンダ後、半田フラックスを除去します。

防湿コーティング

 脱フラックス後、錆・腐食防止のために防湿コーティングを実施します。

ムギ球の全交換

設計当時、既にLEDはありましたが、ムギ球同等の輝度を持ったLEDはまだ販売されていませんでしたし、あったとしてもムギ球とのコスト差は1桁以上あったと思いますので、不採用だったと思われます。現在でしたら、そのようなスペックのLEDは存在し、価格もそれほど高価でもなく、ムギ球の熱害を考慮するとLEDに換装するということも可能です。また色調的にも、電球色、ウォームホワイトなどのLEDもあり、違和感は少なくなったのですが、LEDはムギ球に比べて圧倒的に点灯までの立ち上がり時間が早いのです。ムギ球の少し間があって緩やかに点灯する部分では同じにはならず、オリジナルに対して違和感が生じます。そのため、敢えてムギ球にコダワリ、LEDへの換装は行わず、新品のムギ球に交換しています。また輝度のバラツキが無いように、事前に点灯させて輝度を揃えています。

ABLE/RAMM用インジケータ(カセットリッド照明用)
ムギ球交換前
ムギ球交換後

操作インジケータ部

操作インジケータ部も同様にムギ球を全交換します。因みにこちらは動作電流が多く輝度が高いタイプを使用します。                                           

キースイッチ基板
輝度のばらつきを確認

基板すべてのムギ球を点灯させて輝度のばらつきを確認し、差があれば交換して輝度を揃えることをしております。                                                  

表示基板の輝度チェック

調整について

前述した全てのメンテナンス項目が終わって、漸く調整作業となります。調整はナカミチ発行のサービスマニュアルに基づいて実施します。これは私共のコダワリですが、サービスマニュアルは原則としてオリジナルの原本を入手して使用しています。スキャンした電子ファイルをダウンロードすることも出来るのですが、回路図の鮮明さが違います。また追補版や付記などの点で異なることも少なくありません。

オリジナルのサービスマニュアル

調整時はナカミチ純正のヘッド高さ調整ツール、ナカミチ純正テストテープ、トルクメータ、テープパス調整ツールなどを使用して調整を実施します。

ナカミチ純正テストテープ
各種テストテープ
録音・再生ヘッド高さ調整ツール
消去ヘッド高さ調整ツール
テープパスゲージ
トルクメータ

                        

また、この1000ZXLの調整には専用テストユニット、延長ボードが必要になります。こちらが無いと、サービスマニュアルに基づく調整が出来ません。

専用延長ボード
専用テストユニット

測定器について

メンテナンス作業でサービスマニュアルに基づいて各部調整後、各項目の測定を行います。

測定項目は
 ・テープ速度
 ・ワウフラッター
 ・周波数特性

その際に使用するのが、各種測定器です。
 ・信号発生器
 ・ワウフラッターメーター
 ・レベル計
 ・歪率計

私共では、ナカミチからリリースされていたオーディオアナライザT100を始め、各種測定器を使用して性能確認を行っております。

使用する測定器類

ビス類について

内部・外装部を含めて数多くのビスが使われています。メッキ処理されたビスが使用されているのですが、長い年月経過とともに錆までは出ていなくても、くすんでしまっています。これによって、どうしてもクタビレ感が出てしまいます。そこで、同仕様の新品ビスに全交換します。これにより、全体がシャキッとし、見た目の印象が良くなります。基本的に交換致しますが、オリジナルに拘りがあり製造時のビスが良いということでしたら、交換不要とお申し付けください。

交換されたビス

色(黄クロメート、黒クロメート)、材質(鉄、ブラス、ステンレス)、種類(タッピング、JIS規格、頭の形状、長さ、径)でかなりの種類が使用されています。入手には少数では購入できず、小箱(1000本以上)になる種類等もあるのですが、それでも交換するというのは私共のコダワリです。

各種ビス類
フロントパネル用ビス

ウッドケースについて(オプション)

1000ZXLは専用のウッドケースに収納されています。これは高級感があって、所有する満足度は高いのですが、金属ケースと比較するとダメージを受けやすいという弱点があります。

過去にお取引のある腕の良い木工家具職人の方に依頼したところ、傷・凹み・剥がれなどを綺麗に修復して頂いて、その後は全て依頼してます。標準リフレッシュ作業に対して、オプションとなりますがご依頼頂ければ、追加でご注文も可能です。

メンテナンス前(上側) / メンテナンス後(下側)
メンテナンス前(左側) / メンテナンス後(右側)

NR-100について(オプション)

1000ZXL、700ZXL、700ZXEには専用の外部NRユニットであるNR-100があります。(1000ZXL-Limitedは標準付属品でした) このNR-100も内部に使用されているオレンジキャップが経年劣化で動作不良となる可能性があります。オプションとなりますが、こちらも追加注文が可能です。

外部ノイズリダクションユニット
フィルムコンデンサ交換前
フィルムコンデンサ交換後